[ 西豪州ジンブルバー鉄鉱山開発 ]
金属カンパニー
脇田誠治×鈴木理生

2013 年 6 月、伊藤忠商事株式会社と三井物産株式会社 (三井) は、世界最大の資源会社・BHPB 社の鉄鉱石事業の一部であり、西豪州に位置するジンブルバー鉄鉱山を開発している BHP Iron Ore Jimblebar 社の株式を取得する契約を締結した。金額の大きさもさることながら、前例のない複雑な参画形態 (ストラクチャー) となったことから、検討・交渉期間は約 1 年という長期にわたるプロジェクトとなった。その裏側で駆け回った二人の商社マンにクローズアップした。

脇田 誠治
鉄鉱石・製鉄資源部
鉄鉱石第一課
課長代行

鈴木 理生
鉄鉱石・製鉄資源部
鉄鉱石第一課

はじまりはなんと 1960 年代に遡る。伊藤忠は BHPB と三井とともに、西豪州ビルバラ地区にて鉄鉱石生産・出荷におけるジョイントベンチャー運営を行ってきた。その当時世界一の鉄鋼生産高と技術力を誇る日本の鉄鋼業界に向けて、原料となる鉄鉱石を安定供給するといった意義のある事業だった。さらに近年、中国をはじめとするアジア新興国の台頭により、日本及びアジア地域への鉄鉱石の安定供給を確保することも命題となっている。そんな中、2012 年 5 月に大きな動きがあった。「BHPB 社から西豪州地区の Jimblebar (ジンブルバー) 鉱山を一部購入しないかと打診があったのです。もともと私たちは共同で鉱山を運営する中、その鉱山を一緒に開発したかった。だからその話が来た瞬間に、即プロジェクトは始動しましたね」。後にプロジェクト全体の定量評価、法務・会計・財務面の調査活動及び交渉戦略の中心となった脇田はこう語る。中長期的に見込まれる鉄鉱石の世界的な需要増への対応に迫られていた脇田の胸には、一つの想いがあった。「私たちがいい品質の鉄鉱石を日本・アジアに十分に安定供給することができれば、アジア圏の順調な経済成長の一助となり、ひいては、日本のものづくりも新たな成長に向かうに違いない。それは伊藤忠にとってだけではなく、日本にとっても非常に意義のあることである。先人たちの想いに応えるためにも、何としてでも成し遂げたいと思っていました」。

プロジェクトが始動した当時、鈴木は伊藤忠の子会社である IMEA 社に出向し、豪州にいた。ちょうど現地にいた鈴木に与えられたミッションは、技術コンサルタントを起用し、ジンブルバー鉱山の技術レビューを行うとともに、BHPB 社より提案される鉱山の開発計画及び、鉱石出荷を可能にする鉄道・港湾のインフラ能力に関する調査を担当することだった。「ニーズはあるものの、ジンブルバー鉱山には本当に質のいい鉄鉱石があるのか、そして採掘する為の技術及びインフラ能力は十分に備わっているのかという点を、再度検討する必要がありました。プロジェクト価値を正しく算出し、適正価格で取得することではじめて、私たちがプロジェクトに参加する意義が正当化されますから」。参入するに当たって必要な金額は、数億米ドルにも達することは明白であった。失敗は許されない。「こんなに大きなプロジェクトに出会えることは、人生で一度あるかどうか。実は技術レビュー等の本格的な調査業務は初めての経験だったのですが、そんなことは言ってられませんでした。とにかく交渉スケジュールに遅れを取らぬようたくさんの文献を読み、技術コンサルの方たちに話を聞きながら伊藤忠としての立場を明確にし、交渉に挑みました」。鈴木をはじめとした現地スタッフからの詳細なシミュレーションの甲斐もあり、プロジェクトは少しずつ動きを見せていく。

プロジェクトはここで大きな動きを見せる。これまで交渉先が既存の JV パートナーといえど、BHPB 社から提案された複数のストラクチャーに対して、両社の必要な権利義務の主張が相反し、妥協点をなかなか見出すことができず交渉は遅々として進まなかった。現地の交渉をサポートする立場であった脇田は語る。「私たちとすればこれまでのジョイントベンチャー (JV) でやってきた運用の根本を変えることはリスクを抱えることとなり、なかなか提示された条件に合意をすることはできなかったのです。しかし私たちは負けなかった。既存のパートナーであるというバーゲニングパワーを最大限発揮するためのあらゆる選択肢を検討し提案したのです」。そして 2012 年 11 月、話があると BHPB 社の幹部が来日。「私たちの努力が実った瞬間でした。シンプルに 85 対 8 (伊藤忠) 対 7 (三井) を実現するため新しい参画形態の提案があったのです。これは難航していた権利義務関係の調整に大きな光明をもたらす内容でした」。鈴木も当時をこう振り返る。「前例がない事業ほど、綿密なデータに基づく徹底した議論が交渉の際に役に立つのだということを、身をもって実感しました。これまで昼夜問わず、伊藤忠として必要なデータを入手するために駆け回っていた日々が報われた気がしました」。こうして契約締結に向けて、プロジェクトは一気に佳境へと向かっていく。
そうして冒頭で述べたように伊藤忠は 2013 年 7 月、ジンブルバー鉄鉱山の新規権益を取得することとなった。しかしこれはまだはじまりにしか過ぎない。未来を見つめる脇田はこう語る。「まずはこのプロジェクトを一刻も早く西豪州鉄鉱石事業における収益源とすること。そして BHPB 社の主力鉱山の一つとして、広くマーケットに受け入れられることが目標です。そして中長期的には、現在の圧倒的なプレゼンスをさらに強化していくための先取的な事業に取り組んでいきたいと思います」。日本と豪州、両方の地で本件に携わった鈴木は、伊藤忠の「組織力」と「個の力」があったからこそ達成できた仕事だ、と言う。「交渉という組織と組織の協議に於いて、いかに優位に交渉を進められるかどうかは、組織にいる各個人が全力で役割を全うする事が基盤にあることを実感しました。今回のプロジェクトも、技術・操業、Valuation、法務といったあらゆる分野に於ける担当者がそれぞれに役割を全うすることで初めて得られた結果であったと思います。よく商社マンはジェネラリストだと言われることがあるのですが、その視点も持ちつつ、この分野では誰にも負けない!という強みを持ったプロフェッショナルを目指したいですね」。資源の安定供給を担うことによって、世界の経済を前進させるに違いない。
